山と渓谷社のヤマケイ文庫よりドキュメントものを立て続けに読んでいる。

羽根田治のドキュメント「道迷い遭難」「生還」「人を襲うクマ」「滑落遭難」などである。
昔、沢木耕太郎の「凍」に心底ビビった自分としては、山の遭難ものが苦手である。
であるが、苦手ならばこそ、とっても気になる。

「凍」は著名なクライマーの山野井泰史さんがモデルでバリバリのプロである。
なので、やっぱりエベレストなどの強烈な山に登って、死にかけるということである。
まぁ、一般人には無縁な世界だ。

しかし、ドキュメントシリーズに出てくる人たちは、ただの山好きの会社員や学生である。
軽い気持ちで登って、とんでもない目にあう。
そんなエピソードの連発である。(死んじゃってる事例も結構多い)
日帰りの予定が、1週間死線をさまよったり、人によっては2週間もである。
この間ひたすら少ない食料や沢の水などで、命をつなぎ、最終的に救出される。

この救出のされかたが、はっきりいって、ただの強運なだけ。
それが怖い。
頑張ったから生き残ったとか、努力が報われたとかではなく、本当に偶然の重なりだけ。

捜索のヘリが何度も頭上を過ぎる、「ここだよぉ」と手を振るが華麗にスルーされ、絶望する登場人物たち。自分がこの状況になれば、すぐに生きることをギブアップしそうだ。

あと幻覚・幻聴のエピソードもやばかった。
「おおい、今行くよ!」と声をかけ用意をしている救助者が、なかなか近づいてこない。
よく目をこすると、長いササが揺れているだけ、とか。
葉っぱの擦れる音がささやき声にきこえるとかね。

「運命を分けたザイル」という外国映画が有る。
これも「凍」のようにプロの登山家が、九死に一生を得た物語である。
死ぬ寸前にたくさんの幻覚を見る。その中で、頭の中で音楽がリフレインする件がある。
それも、彼が大嫌いなバンドの曲だ。
決して、ザードの「負けないで」とかの励ましソングではない。

たとえば、雪山だけに遭難中に広瀬香美の「ロマンスの神様」のサビの部分が永遠リフレインされたらどうだろうか。
あの甲高い声で「ロマーンスの神様この人でしょうか?」が永遠リフレインされる中、意識がとぎれて死んでいく。
いや、この曲がとくに嫌いというわけではないが、キツすぎやしないか?
しかし、これがリアルな遭難の死なのかもしれない。と思ったら怖くなってきた!

それはいいとして、遭難は怖い。

しかし、死との向き合い方をみるにつけ、哲学書のような趣もある。
なにか、生き方を根底から変えるヒントがあるような気もした。
気のせいかもしれんが…。