時代物小説はあまり読まない。
だが、山本周五郎は別だ。「さぶ」でハマって以来、事あるごとに読んでいる。
山本さんの良いところは、市井の貧しくも、気高い人々の姿を描くところ。
今やSNSが主流の現代。
いろいろな人が自由に表現できる時代である。
しかし、古い時代は貧しいものや弱き者たちは、権力者の影に隠れて見えてこなかった。
つまり、権力者が悪だと思った人間は、実際はどうあれ、後世には悪人と伝えられてしまうのだ。
思うに様々な創作物や歴史を語る声。それは、強きものが描いた世界であった。
そういった歴史の影に埋もれた人々を、うまくあぶり出すのが山本さんはうまい。
また、箴言が多いんだ。山本周五郎で一番好きな箴言がこちら。
「壮烈であろうとするよりも、弱さを恥じぬ時ほど人は強いものだ」(樅ノ木は残った)より
江戸時代の伊達騒動で従来は悪人とされてきた原田甲斐が、幾編かの逸話を語ったあと放ったこの言葉。
とても、しびれた。弱さを恥じない人間は、とても強い。こう生きたいと思う言葉である。
山本周五郎の小説に出てくる箴言はとても奥深い。
「人間生きているうちは、終わりということはないんだな」(おさん)より
まぁ当たり前といえば当たり前だが、確かにそうだ。
死ぬまで人間には可能性があるということを言っている。いい言葉じゃないですか。
「悩みのみが正しい意味で人間を謙遜にする」(周五郎 昭和25年のメモ)より
これも、シンプルでいて深い。
悩むことは、本来はストレスでしかない。できれば悩みは避けたい。
しかし、深く悩みきることこそ、人を人たらしめる。
悩んで出した答えが間違っていても、いい。
人の言うがままにやり失敗することで、人は謙遜になることはないのだ。
なにか山本文学の語録を抜き取るだけで、哲学者にでもなった気分である。
あくまで気分であるが…。
あくまで気分であるが…。